
プロテスト──一歩ずつ、駒を進める中で見えたもの
今年のゴルフプロテストでは、男女ともに一つずつ着実に駒を進めている。
男子は、9月の最終テストに向けて、それぞれの地で準備を続けている。
そして女子は、ついに全一次会場での予選が終了した。
その中で、特に印象に残った選手がいる。
試合中も状況を逐一報告してくれたおかげで、現場の緊張感や空気感が手に取るように伝わってきた。
私は毎回、「お疲れ様。早く寝ろ」くらいしか返していなかったが(笑)、
彼女の報告には、自身の調子やメンタルを冷静に観察する視点が確かにあった。
ここ最近の流れから見ても、決して甘くなかった3日間。
それでも最後まで自分を崩すことなく、駒を前に進めた。
これまで積み重ねてきたトレーニングやメンタル面での準備が、静かに実を結び始めているように感じられた。
今回、A地区・五浦庭園カントリークラブでは、関わってきた4人のうち3人が一次予選を突破した。
その結果を見て、あらためて「線の上にいること」の重要性を痛感する。
プロテストの記録を2015年までさかのぼって確認してきたが、
一次を上位で通過したからといって、最終に進めるわけではない。
逆にギリギリで通過した選手が、最終では一気に合格圏内に滑り込むこともある。
たとえば2024年のA地区では、一次を通過した選手の中から最終合格者は一人も出なかった。
1位通過でさえ、最後まで残れないこともある。それがプロテストという過酷な舞台だ。
というのも、この試験は約4ヶ月にわたる長期戦。
ゴルフに限らず、スポーツの世界において“絶好調”が長く続くことはまずない。
選手たちは、その期間中に調子の波を何度も経験する。
疲労や気候、精神状態、環境の変化にさらされながら、
何度も崩れ、そして何度も立て直していく。
その「立て直しこそが力」だ。
“ずっと調子が良い状態”というのは、実は幻想に近い。
神経系やホルモンバランス、心理状態、外部環境──
すべてが理想的に噛み合った状態は、ごくわずかな期間しか続かない。
だからこそ、選手たちは自ら整えた心と身体の状態を、揺らぎながらも作り直し続けていく。
そしてゴルフは、その“揺らぎ”が大きい競技だ。
いくら準備を整えても、試合では想定外の外的要因が次々と降りかかる。
強風、前組の遅延、芝の状態、ショットミス、速報の通知──
さらには他選手の態度、表情、言葉一つでさえ、自分を揺るがせる。
それでも立て直せるか。
それでも感情をコントロールし、身体を動かせるか。
まさに、そこにプロとしての資質が問われている。
今回、2日目・3日目と連続して前半でスコアを崩しながらも、
後半で自分を立て直した選手がいた。
整えてきたものを、一度崩れたあとに再び構築し直す──
その姿勢と能力こそが、プロの世界を生きるための鍵になる。
─今週、AIG全英女子オープンに出場している岡山絵里プロ。
彼女も、プロテストでは最終テストまでギリギリの通過だったと記録されている。
最終日にスコアを崩しながらも合格ラインに踏みとどまり、プロとなった。
その後、安定してシード権を獲得し続け、トッププレーヤーとして今も戦っている。
結局のところ、「何位で通るか」ではなく、
「どんな形でも線の上にいること」。
それがすべての始まりになる。
プロテストとは、スコアの数字だけでは計れない。
一打ごとの背後にある心と身体の揺らぎと、その修復の軌跡にこそ、真の実力が現れる。