【美味しそうっ!──内なる神を信じて、海を越える】 ──山下美夢有と日本女子ゴルファーたちの静かな覚悟と挑戦──

 

【美味しそうっ!──内なる神を信じて歩む、静かなるチャンピオン】

──ロイヤル・ポースコールに響いた、山下美夢有の静かな強さ──

テレビの前で、私は思わず声を上げていた。
最終ホール、静かな集中力を貫いた山下美夢有選手が、全英女子オープンを制した瞬間だった。

その勝利の余韻が漂うホールアウト直前。
彼女が西郷真央選手から手渡されたシャンパンに、そっと口に含んだその瞬間、テレビ越しに聞こえてきた岡本綾子さんのひとこと。

──「美味しそうっ!」

思わず笑ってしまった。
でもそれは、冗談ではなかった。
元・世界の第一線で戦い続けた岡本さんが、ただの解説者ではなく、“ゴルフプロの先輩”として心から放った一言。
あの言葉に、祝福と喜びと誇りが全部詰まっていたように思う。


ロイヤル・ポースコールが試した“静かな力”

舞台となったのは、ウェールズ・ロイヤル・ポースコール・ゴルフクラブ。
風、湿度、芝、傾斜。あらゆるものが選手の判断力と精神力を試す、英国屈指の難関リンクスだ。

山下選手は、その風と、地面と、自然と、そして“自分自身”と向き合い続けた。
ドライバーの飛距離は欧米勢と比べて決して抜きん出ていたわけではない。
だが、ショット精度、グリーン周りの対応力、そして何より「心の安定感」が際立っていた。

それは、派手なガッツポーズではなく、静かな微笑みとなってスコアボードに刻まれていった。




外の神に祈る人々、内なる神とともに歩く人

世界の選手たちは、天を仰ぎ、十字を切り、あるいは叫びながらプレーをする。
「Oh my God…」
「頼む…!」
そんな祈りがコースに響くことは珍しくない。

一方で、日本人選手の多くは目を閉じ、胸に手を当てる。
まるで心の中に問いかけるように。
「私はやれる。ここまでやってきたじゃないか」と。

そう、彼女は外の神ではなく、自分の中の“内なる神”を信じて、世界の頂に立ったのではないか。


“勝てる人”ではなく、“崩れない人”になること

大舞台では、技術だけでは足りない。
風、順位、プレッシャー、周囲の空気。
ほんの一瞬、心が揺れるだけで、全てが変わってしまう。

そんな中で、山下選手の目線は、終始ぶれなかった。
カメラがアップになるたび、そこにはただの「勝ちたい人」ではなく、
「どんな状況でも崩れない人」が映っていた。


美味しそうっ!──その一言がすべてを物語っていた

シャンパンの泡が弾ける瞬間。
岡本綾子さんの「美味しそうっ!」というひとことに、すべてが凝縮されていたように思う。

それは、先輩から後輩へ、競技者から競技者へ、そして日本女子ゴルフの未来へと贈られた、最大級の賛辞ではなかっただろうか。


静かに、誇らしく、確かに

日本人らしさとは何だろう。
決して派手ではなく、誰かに頼りすぎず、自分の歩幅で歩く。
不安も、葛藤も抱えながら、それでも静かに立ち続けること。

──山下美夢有選手の全英制覇は、そんな「静かに強い日本人」の姿を世界に示した出来事だったのではないか。

「内なる神」を信じる者が放った、その一打一打が、風を超え、海を越え、私たちの胸に届いた。


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