【“また来年”は、2年後の話】 ──海外に挑むか、国内にとどまるか。20歳の決断と30歳の回想──



【“また来年”は、2年後の話】

──海外に挑むか、国内にとどまるか。20歳の決断と30歳の回想──

かつて、20歳の女子ゴルファーがいた。
プロテストには一発で合格したものの、QTでは結果が出ず、ツアーに出られるチャンスを得られなかった。

「また来年、もう一度頑張ろうよ」
家族も、指導者も、周囲の誰もがそう言った。
だが私は、内心こう思っていた。

“また来年”という言葉は、プロゴルファーにとって2年先の未来を見据えることになる。

2024年のQTで順位が振るわなければ、2025年のツアーには出られない。
2025年に再挑戦すれば、2026年の出場権を目指すことになる。
このスケジュール感覚は、意外と多くの人に理解されていない。

私は彼女にこう伝えた。

「海外ツアーに挑戦してみたらどうか。若いうちにしかできない経験がある。
世界を知って戻ってきた方が、きっと“芯”が太くなる。」

もちろん、海外ツアーに出るのも簡単ではない。
それでも、待つ時間を“鍛える時間”に変えることができるなら、
その価値は計り知れない。

彼女は結局、日本に残ることを選び、今では30歳を超えている。


もう一人、同年代の男子ゴルファーがいた。
高校を卒業してすぐに、「ツアーで食っていく」と決めていた。だが、最初のQTで失敗。出られる試合はなかった。

「日本じゃ話にならない」と、彼はすぐに海外に飛んだ。言葉も通じない、食べ物も合わない、水も体に合わない。
体調不良の中で試合に出ることも当たり前。それでも、彼は生きるようにゴルフを続けた。

30歳を過ぎた今、彼に当時のことを尋ねると、笑ってこう言う。

「試合に出ないと食えない。だから、本気になれた。あの頃がなかったら、今の自分はいない。」

体験談はどれも過酷で、それでもどこか楽しそうに話す。精神は、こうして作られていくのだと、私は思った。


■ 心の筋肉は、どうやって鍛えるのか?

今の時代、メンタルトレーニングの本も溢れている。「呼吸を整える」「ポジティブに考える」「失敗を引きずらない」──
それらはどれも正しい。けれど、それだけでは足りない。

書いてあることは分かる。実践してもいる。それでも、いざという場面では“動かない自分”がいる。

それが現実だ。

心の筋肉は、頭で理解しても鍛えられない。それは、実際に“揺れた”経験の中でしか育たない。

誰にも頼れない試合。準備どおりにいかない環境。水が合わない。風が読めない。でも、逃げ道はない──その場で戦うしかない。そうしてようやく、人は「自分の中の芯」を発見する。

環境を変えること、未知に飛び込むことは、
精神のトレーニング装置として、今も昔も変わらず機能するのだと思う。


■ 時代は変わっても、“覚悟”の作り方は変わらない

昔のような“根性論”は通じにくくなった。
けれど、その代わりになる“実践型の精神鍛錬”は、今の時代にも確実に必要だ。

■ 正解がない状況に、自分で決断する力
■ 予想外のトラブルを、自力で対処する力
■ ミスしても、プレーし続ける胆力

それは、SNSでは手に入らない。どんな動画でも、何千冊の本でも、置き換えはきかない。

だからこそ、私は今でもこう思っている。

“また来年”と言う前に、今できる“別の戦い方”を選んでみてはどうだろうかと。


一人でも多くのゴルファーの役に立ちますように!

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