運動遺伝子と子供のスポーツ選択 vol.76

 

The sportsman the guy performing difficult exercise, sports gymnastics

 

以前器械体操に関わっていた頃、ある近隣の国では、強化選手の選別基準に身長に対する体幹の長さの比率があるという話がありました
まるでマウスのようだとその時は感じたのですが、その後遺伝子解析が進化し、今では誰でも手軽に検査できる時代になりました。身長に対する体幹部の長さが短いという特性が器械体操選手に向いているとされる理由には、いくつかの生物力学的な根拠があります。この指標が重視されるのは、体操における特定の動作が、体の比率によって有利または不利に働くからです。

生物力学的な理由

回転のしやすさ
体幹が短いと、体の回転軸が短くなります。これにより、空中での回転(例えば宙返りなど)がしやすくなり、より速く、より効率的に動作を完了することができます。

重心の位置
体幹が短く、脚が相対的に長い場合、重心が低くなります。重心が低いほど、バランスを取りやすくなり、特に平均台などの競技で有利に働くことがあります。

操作性とコントロール
体幹が短いと、体を制御しやすくなるため、複雑な技も正確に実行しやすくなります。体操では、正確で洗練された動きが求められるため、この特性が重要になります。

研究と実例

器械体操において体幹の長さがパフォーマンスに及ぼす影響についての具体的な研究は限定的ですが、多くのトップ選手が比較的小柄で体幹が短いという共通点を持っていることが観察されています。これは、前述した生物力学的利点が高いレベルの競技で実際に有効であることを示唆しています。

結論として

体幹の長さが短いという特性が、器械体操において一定の利点をもたらすという考え方には、生物力学的な理由が根拠として存在します。しかし、この特性だけが成功を決定づけるわけではなく、技術、力、柔軟性、心理的要因など、多くの要素が組み合わさって最終的なパフォーマンスが形成されます。したがって、ある体型が有利とされることもありますが、それを超える技術や努力によって成功を収める選手も少なくありません。

www.freepik.com

運動遺伝子とスポーツ選択

さて、体幹の長さの比率以上の、遺伝子検査を用いた子供のスポーツ選択に流用することでどんなメリットがあるのか、またはデメリットがあるのか調べてみました。子供の遺伝子を調べて、それに基づいて取り組むスポーツを決めるアプローチは、科学的な側面から見ると一定の利点がありますが、倫理的、心理的、そして社会的な問題も引き起こす可能性があることがわかりました。ある意味体幹部の比率により選別することと近いものがありそうです。

科学的な利点

適性の発見
特定の遺伝的要素がスポーツの特定の要求に適合しているかどうかを知ることができます。例えば、持久力を要求されるスポーツに適した遺伝的特徴を持つ子供は、長距離走などの競技で優れたパフォーマンスを発揮するかもしれません。

効果的なトレーニング
子供の身体的な能力に合わせたカスタマイズされたトレーニングプログラムを設計することが可能になります。これにより、怪我のリスクを減少させ、効率的に技能を向上させることができるかもしれません。

問題点

個人の自由制限
子供自身が本当に好きなスポーツや興味のある分野を自由に選ぶ機会が制限される可能性があります。これは子供の自己決定権や個人の成長を妨げることにつながるかもしれません。

心理的圧力
特定の遺伝的特性を持つというラベルが子供に過度の期待やプレッシャーを与えることがあります。これがパフォーマンスへの不安やスポーツに対する楽しみの減少を招くこともあり得ます。

倫理的な問題
遺伝情報に基づいてスポーツを選択することは、遺伝的なプロファイリングや差別につながる可能性があります。これは社会的な平等や多様性を損なうことにも繋がり得ます。ましてや、親がそれを決めていいのかどうか、更なる問題もありそうです。

総合的なアプローチの提案

子供にスポーツを選ばせる際には、遺伝的な要素を考慮に入れつつも、子供自身の興味、情熱、選択を尊重することが重要です。
親やコーチは、子供が自分の能力を最大限に発揮できるよう支援する役割を持ちますが、それは子供が楽しんで取り組める環境を提供することを意味します。遺伝子情報はあくまで参考の一つとして、子供自身の幸福とバランスの取れた発展を最優先に考えるべきです。

どんなことが分かるのか

運動遺伝子の研究によると、遺伝的要因はゴルフを含むスポーツパフォーマンスに影響を及ぼすことが示されていますが、それがどのように具体的にゴルフの上達に影響を与えるかについては、まだ完全には解明されていません。遺伝的要因は、筋肉の組成、体力、持久力、筋力など、スポーツで重要な多くの身体的特性に影響を及ぼすことが知られています 。ゴルフの上達において、一般的に有利な遺伝的特性には、次のようなものが含まれる可能性があります:

筋肉組成
筋肉繊維のタイプに関する遺伝子、特に速筋繊維(力強い瞬発力を提供)と遅筋繊維(持久力と耐久力を提供)の比率は、スイング時のパワーと持続性に影響を与える可能性があります。

運動能力の適応性
特定の遺伝子変異は、トレーニングに対する身体の適応能力を高め、より効果的な身体の回復と改善をもたらすことが示されています。

心血管系の能力
心臓の効率と血液循環に関連する遺伝的要因は、長時間のプレーにおける持久力とパフォーマンスに寄与する可能性があります。

これらの遺伝的要素は、ゴルフの技術的な側面と同様に、プレーヤーのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。ただし、遺伝的要因はあくまで一部であり、技術、戦略、精神的な要素といった多くの非遺伝的要因と組み合わさって、ゴルフの上達とパフォーマンスを形成します。したがって、遺伝的特性を理解することは有益ですが、それだけでなく総合的なトレーニングと練習にも注力することが重要です。

www.freepik.com

運動遺伝子に関する研究は、スポーツパフォーマンスとの関連を明らかにするために行われており、特に以下の遺伝子が注目されています。自身が中学・高校とやっていたのはバレーボールでしたが、チームでは、177cmは低い部類にあり独学で考えたトレーニングでジャンプ力を養い、どうにかレギュラーを維持できたところ。スポーツテストで行う垂直跳びでは、90cmでしたので(高校3年生の平均値が大凡60cm)、飛べる方だという認識でしたが、私の遺伝子検査では、その認識と全く同じ結果で「超瞬発系」であることがわかりました。

私が今も高校生だったとしたら、科学の恩恵にあやかったのかどうか。間違えなく検査をしたと思います。当時はただただレギュラーになるため、試合に出るためのトレーニングでありましたが、自身の特性を理解していたらより効果的なメニュー選択をしたでしょう。

ACTN3遺伝子

概要
ACTN3は、筋肉繊維中のタンパク質であるアクチニンの形成に関与しています。特に速筋繊維に影響を与え、これはスプリントやパワーに関連するスポーツで有利な要素です。

研究
「The ACTN3 R577X polymorphism in East Asian and European athletic and non-athletic populations: insights into gene regulation of muscle performance」(Journal of Applied Physiology, 2010)では、ACTN3遺伝子の特定のポリモーフィズムが運動能力にどのように影響するかが調べられました。

ACE遺伝子

概要
ACE(アンジオテンシン変換酵素)遺伝子は、血圧調整と関連があり、心臓の効率と密接に関連しています。この遺伝子の変異は、持久力が要求されるスポーツでのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。

研究
「Polymorphisms of the ACE gene and endurance athletic performance」(Sports Medicine, 2012)によると、ACE遺伝子の特定の変異は、耐久スポーツ選手において一般的であり、持久力に有利であることが示されています。

PPARGC1A遺伝子

概要
この遺伝子は、エネルギー代謝とミトコンドリアの生産に関与しており、持久力と筋肉の効率に影響を与えることが知られています。

研究
「The role of PPARGC1A gene in endurance exercise and athletic performance」(Biochemical Society Transactions, 2015)では、PPARGC1A遺伝子が持久力運動とどのように関連しているかが解析されています。

これらの遺伝子は、個々のスポーツパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があるため、遺伝子テストを通じてこれらの特性を理解することが、トレーニングやコンディショニングの戦略をカスタマイズするのに役立つかもしれません。ただし、遺伝的要因はパフォーマンスの一部を形成するに過ぎず、成功するためには包括的なトレーニング、適切な栄養、心理的な準備が必要です。

最後にお詫び

過去のゴルフ雑誌インタビューにおいて、ゴルフのパフォーマンスと遺伝子傾向に関する私のコメントが、一部誤解を招く表現になっていたかもしれません。ここに、その点について心からお詫び申し上げます。私は、ゴルフの上達やプロとしての成功が遺伝子によって決定されるわけではないということを、十分に認識しております。スポーツにおける遺伝的要因は一部の影響を及ぼすに過ぎず、実際には技術、練習、精神力など多くの要素が絡み合っています。私の発言が遺伝子の影響を過大評価するかのような印象を与えてしまったこともあったかもしれないと振り返り反省しております。

この件につきましては、読者の方から直接コメントいただいたりしたわけではありませんが、今回のコラムを書くために下調べをしていたことで、過去の取材について思い出したことがあったため、今後は誤解を招かないよう、より慎重に言葉を選び、正確な情報提供に努めて参ります。ゴルフという素晴らしいスポーツが、誰にとっても公平であり、全ての努力が報われる場であることを願って止みません。

心よりお詫び申し上げます。

平野佳人